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基本ライトノベル

ライトノベルについて書くブログだったはずだけど日記のブログだよ

今年ベスト

今年ベスト。基本ライトノベルというサイトだがライトノベルは一作品だけ。

フィクション部門は同率一位で冲方丁『光圀伝』と長谷敏司『BEATLESS』。この二作品は圧巻。冲方丁の歴史小説は天地明察に続き二作目。彼の作品は歴史物であってもSFマインドがある。SFマインドがあるとはどういうことかといえば、「その時代からは想像もつかないような未来像を思い浮かべる」ことだ。天地明察は暦を、光圀伝は歴史をテーマに扱っている。どちらもその時代だけではなく、長い線上の時間軸を貫く目線がある。長谷敏司のBEATLESSは、長谷敏司のキャリアの総決算だ。円環少女という他に類をみない情報量のライトノベルを書き、あなたのための物語で現代SFの最前線のテーマに果敢に挑戦した先にある、ライトノベル的な娯楽大作プロットにSFテーマを組み込んだ超大傑作だ。読まずに死ぬな。

ノンフィクション部門は『ダークスター・サファリ』に『貧乏人の経済学』を同率一位に推したい。前者は作家による旅行記だが、煩わしい人間関係を精算し、だれでもない自分になる為にアフリカまでいく中二病の爺さんの話だ。ひたすら繰り返されるナイーブな内面の内省は普通だったら読んでいて鬱になるかいらいらしてきそうなものだが、ダークスター・サファリの場合は実によく馴染む。小言の多いがやけに文章のうまいじいさんと一緒に旅をしている気分になる。貧乏人の経済学は貧困問題に対して本当の問題はどこにあるのかを問いなおした傑作。ただ単に貧困国に金を送ればそれで誰もが蚊帳の中で眠れてマラリアから開放されて幸せになれるか? そんなわけねーだろ! ボケ! という話だ。優れた実験手法は蒙昧な目を開かせてくれる。


以降フィクションにおける次点。順位不同。神林長平『ぼくらは都市を愛していた』は今後の未来を見据える上で重要な一冊。情報震と呼ばれる原因不明の情報震災により現代では当たり前になっているネットワークが使用不可になり分裂する。三十年間小説家として常に最前線で闘ってきた人間に相応しい、常に「いま」の問題を中心に据えた問いかけと、応答の覚悟。本書にはそれがふんだんに現れている。

次に榎宮祐『ノーゲーム・ノーライフ』300冊ぐらいライトノベルを読んだがこれはその中でも格段に面白かった。まず冒頭の場面から惹きつけられる。部屋の中に二人の兄妹が手だけではなく足まで使って、飯も満足にとらず、風呂にも入らず引きこもり続け圧倒的にゲームで勝ち続け神話的な存在になってしまっている。そこからの「ゲームがすべてを支配する世界」に飛ばされるまでの盛り上がりは演出として考えぬかれた一級品で何度もあたまのなかで反芻させて楽しんでいる。

森博嗣ブラッド・スクーパ』は『ヴォイド・シェイパ』に繋がるシリーズ二作目の作品なので次点に入れたが、おもしろさだけでいうならベスト級。ミステリィや架空の世界の戦闘機乗りを書いたスカイ・クロラシリーズと多種多様な作品を書いてきた森博嗣だが、彼が練り上げた最新の世界観がこのシリーズ。なんと剣豪小説である。山で剣の達人と一緒に過ごしていた主人公は、達人の死を契機に山を降り、俗世間との関わりの中でからっぽな自分を埋めていく。剣について、強さについて、そして何より斬り合い時のひりひりするような緊張、戦闘機から地上の戦いに切り替わっても描写の鋭さはますます冴えている。

小川一水『天冥の標』。これも面白さだけで言うなら正直BEATLESSより上かもしれない。最新刊ではついに銀河を揺るがす大戦争が始まる。人と人が争い、人より上の種族が人を利用し自分たちの思惑を通そうとする。あらゆるレベルの思惑がかちあい、うねり、葛藤がおこり、一方でどこまでも遠く宇宙を探求したいという純粋な好奇心が沸き上がってくる。今世紀最大の傑作シリーズであり、読んでいて僕はこのシリーズに出会えた自分の人生の選択すべてに感謝した。素晴らしい作品なのだ。

上橋菜穂子獣の奏者』。文庫版で今年完結。最高のファンタジー小説。ファンタジーを僕が好きなのは、それが現実を意識させないまったく別世界へ連れて行ってくれるからである。絶対に人になつかないと言われている王獣というファンタジー生物と心通わせることに成功したエリンの人生を描くが、その手法が常に仮説・実験・検証の科学的サイクルをとっていることが特徴的。でも物語のおもしろさはそんな事とは関係がなく、一言では言い表せないほどディティール細かく豊穣な作品だ。

ノンフィクションは簡潔に説明できないのでぱっぱと説明。今年出たわけじゃない本も多数含む。J.S.ミルの『自由論』。中谷宇吉郎の『科学の方法』。真木悠介の『時間の比較社会学』これはループ物を考察する時などに知っておくと面白い本。今では誰もが線上に無限に伸びる時間軸を頭の中にすぐに思い浮かべられるし、その観念に支配されているがほんの少し前まで「20年後」などといった未来の概念はなかったし、必要なかったという話。

リンダ・グラットン『ワーク・シフト』ビジネス書はクソみたいなものが山ほど出て、売れるものほどクソな傾向があるがこれは売れている割に良い本なのだ。今世代ごとに急激な仕事観の変化が起こっている。そしてその断絶がいたるところで問題を起こしているのだが、多くの人たちはそれを理解しておらず今までどおりの自分たちのやり方で組織を動かそうとしてさらに軋轢を生み出しているように見える。そうした断絶を意識し、埋めるために必要な一冊だ。

ブライアンクリスチャン『機械より人間らしくなれるか?』チューリングテストをご存知だろうか? 数学者のアラン・チューリングが1950年に提案した試験であり、人間の判定者が姿の見えない相手とチャットなどを使ってやり取りを行い、判定者が機械と人間の区別が行えなかった場合、この機械はテストに合格……つまり人間の思考と少なくとも表面上は同等であると判断する。本作でブライアンクリスチャンは人工知能の人間模倣の限界を探ることで「どこが未だに機械に代替できない部分なのか」つまるところ「人間の本質とはなにか」を探っていく。これもまた傑作だ。

ここからは震災と向き合うための本。脱原発か、原発推進かの二元論でしか意見がもてないのでは意味が無い。放射能とは何かといったところから捉え直し、自分自身の立ち位置からまずは決めなければいけない。飛行機にのるときだって、あるいは住む場所によってもリスクの度合いはまったくかわってくるのだから。⇒『やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識』『科学的とはどういう意味か』『エネルギー論争の盲点』『』

まったくラノベサイトらしからぬ年間ベストでした。ラノベばっかり読んでいるんじゃないぞ! 世の中には面白い本が山ほどあって、これからも出続けていくんだからな!