基本ライトノベル

ライトノベルについて書くブログだったはずだけど日記のブログだよ

人類は衰退しました8:精神的売春産業への提言なりや

傑作。

今回の話はアニメーション作成に拡張現実作成に、村おこし。なんら関係無いような要素だがアニメーションと拡張現実をいっぱい充実させて村おこしをさせようという話だ。

ついでに村おこしをせねばならない理由は援助によって資金がじゃぶじゃぶ注ぎ込まれて働かなくてもよくなった結果誰もが自堕落になり、未来が想定できなくなり村人が次々と出て行ってしまったことに起因する。ところで援助によって住民が働かなくなるというのは現在の貧困国への援助でもたびたび話題にあがるグローバルイシューであって、本作においては相変わらず現象発生は局所的な村の話だが現代社会に照らし合わせられる普遍的な内容だ(適当なこといってるが)。

毎回話のトーンが変わるのもこのシリーズの特徴だが、今回の「私」の役どころは苦労人の責任者。解決が難しい問題が山積みになっていきにっちもさっちもいかなくなっていく状況をどう切り抜けていくのか。睡眠時間をけずってまで働き、むしろストレスで寝たくても眠れない。逆子がお腹の中にいる妊婦は村から医者がいなくなってしまった、医者をよこしてくれと無理難題を言い村人はどんどん村に愛想をつかして逃げていく。「私」の友人「Y」との会話が本シリーズにおいて最も寂しいやり取りだ。

「今夜、飲むか?」
「やめときます。不眠で酔うと、翌朝ひどいから」

アニメではうら若き美少女たちだったのだがここだけ読むとくたびれた社畜サラリーマン同士のやり取りにしかみえない(ずーん)。いつもなんだかんだいって理詰めでうまくやってきた「私」だが自信をもって仕掛けた拡張現実サービスはうまく普及しないしとにかく未だかつてないほどうまくいかない話になっていてこれがまた面白いんだよねえ。組織が硬直していく状況とか、問題が山積みになって心底参っていく感じとか、

しかも別に「私」に能力がないわけじゃないんだよね。最大限できる手段をとっているにも関わらずどうしたってうまくいかないってことが往々にしてあるわけであって、そこで「まあそれならしょうがないかー!」って朗らかな気持ちでいられたらそれが一番いいんだけどそう簡単に割り切れることばかりでもない。最大限できることをやってそれでもうまくいかないことがあるからこそ「祈り」とかいうものがあるのだ。

で、「おお」と思った点がひとつ。ファンタジーや奇想ではおなじみな「夢の世界」と「拡張現実」という要素をかけあわせて一個の作品にしているところがおもしろかった。現実というレイヤーに、あらたなレイヤーをかぶせるのが拡張現実で、夢の世界は完全に別個の世界なので直接同じものではないのだけど、拡張現実を踏み台にして夢の世界につなげるという発想が普通なかなか出てくるもんじゃないよなあ。

拡張現実もあまり拡張し過ぎると夢になるのだ。夢に段々と侵蝕されていく現実世界。十全にSFですな。はたして永遠に夢の世界にいられるのはユートピアかディストピアか。また何でもかなっちゃう世界は大変に素晴らしい世界だが本当にそれでいいのか? という疑問の提出はそのまま今の萌え産業(精神的売春産業)へのひとつの意見のようにもとれる。

自分たちの願望を充足させるだけのフィクションにおぼれていていいのかと。

現実は厄介なしがらみが多く、快刀乱麻を断つごとくスパっと割り切れることばかりではない。かつて赤木シゲルが「なんでみんなもっとスカッと生きね~のかなあ」とぼやいていたがスカっと生きるのには、現実は摩擦係数が高すぎるのだ。『人類は衰退しました8』がやたらとうまくいかない組織を書いたり、人間関係を書いたり、そしてそれを妖精さんを使ってスパっと解決するのをやめたのは、話の筋として注目しているのがそうした現実のややこいところにあったからだろう。

夢の世界と現実世界の重なり具合、イメージが素敵でしたね。ここ最近の本シリーズは一冊=ワンエピソードになっており、話に厚みと重厚感が増していって田中ロミオのゲーム時の作風に近づいていっているように思う。ファンとしてはRewriteのファンディスクなんてアホみたいなもん書いているヒマがあったら別のオリジナルな作品を書いて欲しいですよ。